
遠い異国からの便りがあなたへの甘い記憶と繋がる。
でも、わたしは疲れてしまった。あなたに繋がる鎖を今必死に外そうとしているんだよ…。気付いてる?
ねえ、あなたがわたしを好きと言ってくれた、その「好き」は何処から派生したものなの?
容姿も、バックグランドも、学歴も、何一つ誇れるものはないわたしの、何処を愛してくれたのだろう?
物質的ではない不確かなもの。例えば「心」と言う曖昧な場所。優しいとか、居心地が良いとか、目に見えないカタチに、何かを見いだしてくれたのだろう?
わたしはと言えば、あなたの声。あなたの腕から指にかけての形。たまにしか見せない優しく光る黒曜石の瞳。そしてあなたの匂い。薄情を装いながら、決してそうではないところ。そして弱みを見せまいと強がり、でもすぐそれが綻びるところ。
いつだって容易く思いだすことができる。感じることができるはずなのに…。
雑踏の中であなたの香りに出会う。思わず追いかけてその存在を確認する。ブラウン管の中から、あなたがわたしを呼ぶ声が聞こえる。一瞬凍りついたわたしは、でもすぐにあなたを探す。
でも、目を閉じてその姿を描いても、的確な線で描くことは出来ない。火を灯された蝋のように、その姿はやんわりと姿を変え、元のカタチをそこに見いだすことはできない。物理的でない曖昧なものたちだけが、わたしとあなたを繋いでいる。
でも本当に、まだ繋がっているの?
だって、あなたはわたしに触れてくれないし、暖めてくれない。声に出してあなたを呼んでも返事もしてくれない。わたしには、目に見えないあなたを感じることはできない。
あなたは聞える? わたしがあなたを呼ぶ声が。逢いたいって叫ぶこの痛みを感じることはできる?
フリート・ウッド・マックを聴くたびに、涙が出る。スティービー・ニックスが歌うたびに、あなたが抱き寄せてくれた肩が疼く。「タンゴ・イン・ザ・ナイト」はもう擦り切れてしまい、あなたと踊ることはできない。
ねえ、あなたがわたしの側にいるというなら、覚えていろというのなら、その姿を見せてよ。
子供の頃はなんだって見えた。信じることが出来たのに、今のわたしにはそんな力はないから、嘘で良いから甘くて優しい夢を見せてよ。
覚えてる? 明日がわたしの誕生日ということ。まだ忘れるなと言うなら、雪を降らせてみせて。雪が降る日に生まれたわたしのために、それぐらいの魔法をつかってみてよ。
そんな馬鹿馬鹿しいことを思いながらベッドに潜り込み、もう中身のなくなったコロンの匂いを嗅ぐ。わたしのトランキライザー。ただただ、深い眠りにつけますようにと。
翌日は思いっきり快晴でなんか笑いがでちゃう。駅までの道のり15分を、あなたがくれたおんぼろ自転車で進む。少し遠回りだけど、車通りの少ない住宅街の坂。凛々しいほど冴えた空気の中を、息を切らしながら自転車を漕ぐ。
そして、突風にストールが舞い、慌ててそれを拾いに進んだ反対側の庭先に、奇跡が起きる。
あなたがそこにいて、そして微笑んでいる…。
まだ咲くには早いこの季節に、小手毬の小さな小さな花弁達は、きらきら光りながら、尖りながら、粉雪のように舞っている。その淡雪は、わたしの肩に落ちても溶けることはなく、主張あるその白さを誇示して優しく語りかける。
雪ぐらいいつだって降らせてやる。
僕はここにいる。風になって、光の粒になって、雪になって、君が見つける庭先の名もなき命になって、いつだってそばにいるよ。君に属したまま…。僕はいつも君のそばにいる…。