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い花摘んで あの人にあげよ
  あの人の髪に この花さしてあげよ
    
い花 い花 あの人の髪に
      咲いて揺れるだろう お日様のように


 深海にきらめく真珠のように美しい彼は、その美しさと異質さによって、みんなに受け入れてもらうことは出来なかった。
 彼の右目は、朝露にほんの少し、サファイヤとトルコ石の欠片を落としたような不思議な静けさを持った水色で、見つめられると吸い込まれそうに清く正しい。
 でも、もう片方は、クリムトが描く、妖艶な女たちがまとう、計算されつくした色香の象徴である金色で染まり、熱く激しい。

 あたしはといえば、闇に溶けて消えるような黒い身体に、幼いころから、片足が悪く痩せっぽっち。決して美しい女ではない。いや、美しいなんて言葉すら使えない。あたしは、醜い女だ。醜さゆえ、あたしは、みんなに受け入れてもらうことができない。

 彼と出会ったのは、月が蒼く輝き、星がきらきらと瞬くそんな夏の夜。一人川べりでたたずむ彼に、あたしは呼吸を忘れ、その鉛白のしなやかな体躯に引きつけられ、魅せられた。
 身体中にぴりぴりとした痛みが走り、全身の産毛が逆立つような感覚。まだ女になっていないあたしの女の部分が、ひりひりとした熱を帯び、蠢き始める。あの雄を食べたいと……。

 そんな自分の雌の部分に気付き、嫌悪感に襲われる。恥ずかしい。身のほどを知らないその思い。あたしみたいに醜い女を誰が抱いてくれるというのだろう。愛してくれるというのだろう。

 ああ、おかあさん。せめてあたしを彼のように白く産み落としてくれたなら。ああ、おとうさん。事故に遭ったときに、すぐに医者に連れていってくれたなら。ああ、かみさま。どうして美醜というものを、そして感情というものを、あたしたちにお与えになったのですか?

 あたしは、哀しかった。ただそこで、彼から少し離れたこの場所で、じっと見つめることしかできない自分が。
 沢山の女たちが彼に声をかけ、そして彼に冷たくあしらわれるのを見続けている自分が滑稽で、そして辛かった。あんな綺麗な女たちにすら、彼は興味を示すことはないのだという事実が、あたしの瞳に、銀の滴を落としていく。

 あたしがあんまりにも泣き続けたために、かみさまが可哀想に思ってくれたのかも知れない。ある痩せた月のため息が、彼の頬を撫で、いつも水面しか映さないその二粒の宝石の中に、あたしの黒い影が尖る。

「こんばんは」
 枯れ果てた大地に降り注ぐ慈雨のように、その澄んで冴えた彼の声があたしの魂に響き渡る。恋い焦がれて、瞳に映すことしか出来なかった愛しい彼から発せられた、それはまさに魔法の呪文。

「こっ、こんばんわっ!」
 うわずってひっくり返った声が喉から飛びだし、耳に届くその不細工な声に涙が出た。なんで? どうして? いつもなら、もう少しましな声なのに。

「こんばんは」
 彼は、もう一度優しくあたしに声をかけてくれた。彼のその透き通るような瞳に、あたしが存在するなんて、まるで夢のよう…。夢のよう?

「どうしたの? おちびさん?」
「えっ? あの、そのっ、これって夢ですか?」
「えっ?」
 くすくす笑いながら、響き渡るさざ波のようなその声。あたしの心に寄せては引き、引いてはまた満ちる。夢でも良い。
「夢? おかしなことを言うね?」
「ごっ、ごめんなさい。あたし、こんなだから、こんなあたしに話しかけてくれるような知り合いも友達もいないんです!」
「そうか…じゃあ、わたしと同じだ。少し話をしても良いかな?」

 そう言うと、蒼く冴えた月の光を浴びながら、まるで自身が発光しているような、そんな不思議存在の彼は、あたしの右側に腰を下ろした。
 彼のその存在を、吐息を真横に感じ、あたしは生まれ落ちてきたことを、初めてかみさまに感謝した。星が涙のようにこぼれる、そんな切ない空の下で。





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