世の中にはとても分かりやすい人間がいて、多分に笑えることがある。
例えば同窓会に出席したとしよう。すると、必ずこんな人が存在するのだ。
「あっ、Aさん。久しぶり。元気?あれ、ちょっと痩せたんじゃない?」
「ああ、Kさん。久しぶり。随分痩せて綺麗になったね。今、どうしてるの?」
「今ね、婚約中で、来春結婚するのぉ〜」
「そうなんだ。おめでとう」
「で、Aさんはどうなの?」
「えっ?この秋、結婚したんだ」
「そうなんだ。おめでとう〜!あっ、Eさんだ。じゃあまたね、Aさん」
自分が痩せた事をアピールしたいがために、まず相手に痩せたのでは?と話を切りだし、全て自分に返ってくるように持っていくタイプの人。幸せな人である。
「あっ、Eさん。久しぶり。元気?すっごいバッグ!素敵!」
「ああ、Kさん。久しぶり。Kさんこそ、それ、エルメスでしょ?すごいわねえ」
「これっ?ふふふ。彼がこれぐらい持ってないとって買ってくれたの」
「うわー、すごく甲斐性のある彼氏なんだね」
「Eさんも彼に買って貰ったんでしょう?」
「まさか!そんな甲斐性ないよ、わたしの彼氏には(苦笑)」
「そうなんだあ〜。でも優しい彼なんでしょう?」
「ええ、とても」
「あっ、ご免なさい。Tさんが来たみたい。じゃあ、また後でね」
相手のバッグを褒めたのは、自分の持っているバッグをアピールするためである。そして自分の彼の甲斐性まで相手に伝える見事さ。天晴れな人である。
「あっ、Tさん。久しぶり。元気?あっ、素敵な時計ね?」
「ああ、Kさん。久しぶり。Kさんこそ、それ、ロレックスでしょう?」
「これっ?ふふふ。彼とペアなの」
「渋いところで、ペアなんだ。素敵だね」
「Tさんも、彼からのプレゼントでしょう?」
「あははは。自分で買いましたよ。今まで頑張ったご褒美にね」
「そうなんだあ〜。Tさんバリキャリだもんね」
「どうかなっ(苦笑)?」
「Cさんが来たみたい。Cさーーーーん」
ここでも彼女の分かりやすさが炸裂。ブランドの分からない時計なので、何気に「素敵な時計ね?」と疑問符をつけ、自分のロレックスに話を持っていく展開の素早さは見事としか言い様がない。そして、相手がいかに頑張ってその時計を手に入れたかなんてことには、一才興味を示すことなく、次の獲物へいざ出陣。
さて、Cさん。どう対応する?
「あっ、Cさん。久しぶり。元気?あっ、素敵なコートね?」
「ああ、Kさん。久しぶり。別に、ステキじゃないよ。コート。もう何年も着てるし」
「そうなの?でも個性的でステキじゃない?」
「ありがとう。褒めても何にもでないよ(笑)」
「そんなあ、お世辞じゃないよぉ。Cさん、昔から個性的だったから」
「そうかな…?ねえ、さっきTさんと話していたでしょう?」
「えっ?うん?」
「Tさんの時計見た?素敵ねえ」
「…」さりげなく自分の手元をCさんにアピールするKさん。
「Tさんのクロノグラフ、あれZENITHでしょう?格好良いよねえ、誰が見ても分かるブランドとかじゃなくって、機械の素晴らしさ、伝統を熟知して、そして選ぶあのクロノ。やっぱり、ばりばり働く建築家は違うわ」
「えっ?Tさん、建築家なの?」
「そうだよ。知らなかったの?あっ、ほら見て!Aさん。 Aさんも綺麗になったよね」
「うん。そうね、かなり痩せたみたいだし…」
「やっぱり、旦那さんが素敵だから、彼女も頑張ったんじゃない?」
「えっ?どんな旦那さんなの?」
「フランス人でね、以前雑誌に紹介されたのを見たことがあるんだけど、背が高くってモデルみたいなんだもん」
「雑誌に紹介?」
「プロダクトデザインをしてるんだって」
「はあ…。すごいねえ」
「すごいといえば、Eさんの決断もすごいよね」
「うん?決断?」
「あそこ旧家だからね、何やらすごい条件でお見合いが合ったらしいんだけど」
「……」
「それを蹴って、家を飛びだしたらしいのね」
「……」
「なんだか売れない物書き志望の彼氏と暮らしていたみたいなんだけど、ようやく芽が出たみたいで、小説出版されるらしいよ。すごいよね」
「それって、作家夫人ってこと?」
「いずれはそうなんじゃない?それに、育ちが良いから彼女、持ってるものステキじゃない?あのコートもとても素晴らしい素材とラインで彼女を引き立てているし、バッグもあれアンティークのクロコでしょう?今どき、あんなの買えないよねえ」
「確かに素敵だけど…。そんなに素敵なコートなの?あの鞄もすごく高そうと思ったけどぉ…」
「昔、7年近く前になるかな?ファッション・ショーを見に行ったことがあるんだけど、その時に見たコートと一緒だもの、あれ。あんな素敵なの忘れないよ。バッグも、分かる人には分かる品だし、ね」
「……」
「あれっ?Kさん?」
分かりやすい彼女は、そそくさとその場を去ったのは言うまでもない。
「おーい、C!久しぶり!」
「おひさっ!Tさん。元気?」
「元気よ。あれ?さっきまで、Kさんと一緒じゃなかった?」
「ああ、あの人、自分を知ったみたいで帰ったよ(笑)」
「なに?またなんかいけず言ったの?」
「のんのん!ほんとのこと話しただけ」
「本当のことって?」
「Tさんの時計のことや、Eさんのことでしょ?そして、Aさんの旦那さんこと」
「まあ、あの二人のことはいいけどわたしの時計なんて、彼女のに比べたら安いよ?」
「ああ、彼女のロレックスだモンねえ」
「あれ、高いと思うよ。彼とペアだって!嬉しそうに話してたもの」
「いくら高価なもの着けてたって、似合ってないじゃん!」
「あなたも相変わらずはっきり物を言う人だね(笑)」
「うん、あの人、昔から嫌いなんだもん」
「あははは。分かりやすいやつだなあ、Cは!」
いやはや。分かりやすい人だね、このCさんも。ちなみに、Cさんはわたしではない。念のため。