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 わたしたちが未来を担っていくんだ、忌まわしい過去に捕らわれている場合じゃない。わたしたちには、国境なんてないんだ!

 昨日放送された、雷波少年を見て、そんなふうに思った人はたくさんいるだろう。

 でも、そんなに容易く国境越えなんてできはしない。
 しかし、国家や宗教というものが根底にないわれわれ日本人は、安易にそう思ってしまう。

 過去を振り返っても仕方のないことだし、われわれ日本人が犯した大罪としても、今の自分たちには関係のないことだ。そうなのだ、その通りなのだ。

 わたしたちは、同じアジアの民に対して、強姦も虐殺もしていないし、彼らを奴隷のように扱ったりしていない。ただ、かつてそれをしてしまった一部の人間の子孫に過ぎない。

 授業でそんなことを習ってみても、そんな暗いことには興味がないし、ブラックだろうがイエローだろうが、格好よければ、イッツオーケイ!ってなもの。

 そんなわれわれ日本人と、国家という存在、宗教というものが根底に深く深く根を張っている国民が、そんなに簡単にボーダレスに、過去から続く深く刻まれた黒い線を、その記された暗い闇を、柔らかく暖かな点へと変えていけるのだろうか。

 ロード・ムービーは大好きだ。まして訪ねたことのある国ならば、なおさら興味深く、だから、この企画も楽しみに見てきたけれど、根底の壮大なるテーマは、結局のところ、理想論に過ぎない。

 日本人のカズ、在日韓国人のチャンガン、韓国人のジョンアー。

 この三人が、ぶつかったり悩んだりして一歩一歩進んでいくのは、確かに感動したし、この三人の中にあるボーダーは、少し緩んだかもしれない。でも無くなったわけではないはずだ。

 この日本人のカズが感じた不安や、無知な自分に対する怒り、懺悔の念は、最初の旅行でわたしが体感したものと同じだ。

 声高らかに、日本人である自分を主張したわけではない。わたしは、彼のように音の翼は持っていないから。自分の考えていることを、的確に伝えることもできない。言葉の壁は厚く、また、何も考えていなかったから。

 だから、向けられた怒りの念に震えたし、投げつけられた石礫に、心だけでなくその肉も切れ血も流した。肉親を、愛する人を失った人達の心の闇は、本来わたし個人に向けられるものではないはずなのに、やり場をなくした膿が、容赦なく、一個人の旅行者に平気で向けられたのだ。

 でも、それは誰もが感じる当たり前のこと。頭ではちゃんとわかっているのに、でも、心がついていかなくて、ただ哀しくて、悔しくて。

 だから、このようにある人はわたしに云ったのだ。

 あなた個人とは、色々話をして理解もできるけれど、日本という国家がしたこと、していることを、わたしたちは理解できないし、許せないの。

 そうだ。国という規模でなくても、わたしの心は、格子で区切られ、線引きされている。
 優しい人、そうでない人。尊重してくれる人、そうでない人。意見の合う人、遠い人。価値観の似ている人、かけ離れている人。
 あれこれと理由をつけて線引きしているのだ。

 そしてまた様々な理由をつけられて、区別もされている。各人のフィルターを通して。美しいか、否か。優れているか、否か。持っているか、否か。

 誰もが納得のできる憤りや怒りでの区切りなら、想像もしやすい。しかしそうではない、くだらない理由で、差別や区別という線は碁盤の目のように張り巡らされている。いや、自分がその線を自らに架しているのだ。きっと。

 そんなわたしには、それを知っているわたしには、彼らのメッセージは遠く、心に届かない。彼らのように声高く、心の翼を広げる強さと若さはもう持ってはいないから。

 でもね、本当は願っている。今やっているコマーシャルのように、自分だけでなく、自分が伸ばした腕の先に収まるぐらいの人達の幸せを。その愛する人達の心の痛みを和らげることのできる優しさを、微笑を返すことのできる大らかさを、盾となる強さを、ほんの少し与えて欲しいと。

 線引きする自分を許せなくても、それは自分なんだから。自分に返ってくることを知っているんだから。それを判っている自分を、考えた自分を少しは愛せるようにと祈っている。
 そうすればきっと、その腕をもう少し力強く伸ばすことができるはずで、少しでも長くなったそれは、横で待っていてくれる人の腕を掴むことができる。握り返すことができる。

 わたし個人にはできない国境越えは、きっと握った手の先の誰かが、いつか超えてくれる。どうか、そんなことを望める青臭さをわたしに与えて下さい。 
 そして、その愚かな願いは、きっと爪の先の僅かな傷から感染して世界へと広がる…。そうであることを祈らせて欲しい……。



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