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 その手は、とても大きくて分厚くて、ひび割れて油で汚れていた。

 でも、その手はとても雄弁に彼の人格を物語っており、その不器用そうな指が、わたしの肌の上で、どのような軌跡を描き、わたしに感動を与えてくれるのか、そのときのわたしは、まだ知らなかった…。

 なーんて、小説っぽく書きだしてみましたが、続きませぬ。ぱたっ。

 綺麗な手が好き。
 ピアニストのような、細く長い指先。手の甲と指の長さのバランス。ひじから手首までの形。肩から流れるような線で浮き上がるしなやかな筋肉。造形的に均整のとれた美しい姿。


 わたしにはないないものだから、憧れて止まないのかも知れない。
 自分の手は嫌い。
 でも、指と甲のバランスは、結構お気に入り。だけど、細さとか、しなやかさとか、そんな女性らしいと言う部分では、全く駄目。男性として生まれてきて、この指だったら結構良いかもしれない。バランスも関節の太さも。そして、以外にも器用に、マッサージも上手だし、ね。

 上記のピアニストのように、業種によってイメージする手がある。そのイメージというものは、わたしの中ではかなり大きな部分を占めており、体格、背格好、そして容姿から勝手にその手を想像する。

 美容師の指は、液剤で荒れているイメージがある。
 職人の指には、たこができており、太い節が男らしい気がする。
 バーテンダーの指は、しなやかで長く器用な感じがするし、機械工の指は油で汚れており、その爪は短く、甲は分厚い。

 そんなイメージは、あまりにも勝手すぎて、時々、粉々に砕け散る。容姿と手先のギャップ。背格好と指のギャップなどなど。
 がっかりすることも多いけれど、ときには、感動すら覚えることもあり、わたしは、その働いて、あかぎれて、しもやけ一杯の大きな手の主の、可愛い彼女に嫉妬を覚えたりするわけ。勝手な妄想。楽しい掌編ができ上がり、二人のハッピーエンドで幕を閉じる。

 彼は、ガソリンスタンドで働く男の子。金色に近い茶髪。片耳に、きらきら光る二つのピアス。切れ長の二重。長いまつ毛。ぷっくりした豊かで女の子のように濡れた紅い唇。骨はしっかりとがっちりとして背も高い。指先にも、大きなリングなんて似合いそう。一見、ちゃらちゃら見えていて、そうではない。働き者のその手は、とても大きくて分厚くて、ひび割れて油で汚れていた。

 顔に似合わない太くてごつい指先は、いつも繊細な気配りを示し、綺麗な瞳で見つめられながら挨拶されると、ときめかずにいられない。
 言葉のひとつ、仕草のひとつ。作業のひとつ。どこを見ても彼は手を抜かない。だから、わたしは、このガソリンスタンドで給油をし、灯油を購入するのだ。

 真摯に働く男は美しい。例え、わたしの理想の手と違っていても、わたしはその指に触れられたいと思う。その腕に抱かれたいと思う。

 働く手は綺麗な手。


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